ずいぶん昔に(まだ「続ふわふわ・・」ではなく「ふわふわ・・」だった頃)音律について何回か書いたことがありました。
「羊と鋼の森」という調律師の話が本屋大賞かなんかに選ばれて、調律師の仕事が小説風に紹介されていましたが、簡単に言うとピアノの調律師は単にピアノの音程を調律している訳ではない。
ピアノ全体の調整にはハンマーの柔らかさ(硬さ)やキーアクションの調節など多岐にわたっており、車の車検に例えれば単にエンジンの調整だけでなく、ブレーキパッドの減り具合、エンジンオイルの状態、各種ライトの点灯状態や、タイヤの溝の残り具合など総合的に点検しているわけです。
で、音程の調律についてはまずは音程というのはどのような仕組みになっているのかを知らねばなりません。
今は平均律で調律されることがほとんどですが、バッハ以前には平均律という概念がなかった。え?どういうこと?
A=440 Hz で合わせたとして、オクターブはその整数倍で問題ない。880, 1960, 3920 Hzとなります。 低音側は 440, 220, 110, 55 Hz です。
ピタゴラスはギターの弦を張ったような装置を使って、オクターブ上は弦長が 1/2 となり、そのまたオクターブ上は弦長が 1/4 になることを発見しました。 ギタリストならすぐに納得できますよね。12 Fr ハーモニクスはオクターブ上の音になるし、5 Fr ハーモニクスは2オクターブ上の音になりますから。12 Fr は弦長がちょうど 1/2 だし、5 Fr はその半分ですからね。
問題は5度上の E 音はどうなるかです。
え? そんなん 7 Fr のハーモニクスまたは押弦に決まってるじゃん、と即答したあなたは素晴らしいギタリストですが、実は 7 Fr ハーモニクスで出てくる音は「純正5度」と呼ばれる音で、正確には平均律の5度とはわずかにずれているのです。
そんな馬鹿な! と思われるかも知れませんが、それでは次のような話はどうでしょう。
ドからオクターブ上のドまでの12半音階を作るにはどうしたらよいか? そりゃあ C を決めた後で、5度ずつ音を重ねていく。 C - G - D - A - E - B - F# - C# - G# - D# - A# - F - C (適宜オクターブ下げて1オクターブ内に収まるようにする)で出来上がりと。
はい、正解と言いたいところですが、なんとこの方法では最後の C は最初の C のオクターブ上にはならないのです。純正5度を積み重ねていくとこういうことになります。
びっくりしますが、そういう風にできている。神のいたずらでしょうか。
言葉を換えるとオクターブ上の C を最初の C のちょうど2倍の周波数に合わせておくと、最後の F - C は純正5度にならない。超うなって気持ち悪い響きになります。これをウルフと言う。
話が長くなるので数回に分けて解説しようと思います。